生活保護施設からの脱出マニュアル

生活保護施設を拒否し、脱出するためのマニュアル
今岡直之 2023.09.09
誰でも

 筆者が所属するNPO法人POSSEの生活相談窓口には、ホームレス状態で生活保護を申請した際に、役所から「施設に入れ」と言われ、嫌だったので申請できなかった、あるいはすでに施設に入ってしまっているが、施設から出たいという相談が多く寄せられている。今回は、生活保護関連の施設からいかに抜け出すか、ということについてQ&A方式で解説しよう。

Q 生活保護の窓口で言われる「施設」ってどんなところ?

 東京近郊でホームレス状態の人が生活保護を申請しようとすると、まず入所を求められるのが「無料低額宿泊所」だ。私が相談を受けた人たちの証言によれば、部屋は個室でなかったり、個室と称していてもワンルームの部屋をベニヤ板で仕切っているだけだったりする(1人あたり3畳程度)。南京虫が湧いた施設もあるという。

無料低額宿泊所の室内(相談者提供)

無料低額宿泊所の室内(相談者提供)

 さらに、食事は古い米が多く、揚げ物ばかりだったり、毎日同じものばかりだったり、と評判がよくない。食事、風呂、清掃などの集団生活が辛いという人もいる。また、保護費のほとんどを徴収され、手元に1、2万円程度しか残らないという。保護費の徴収によって利益を得ているために、こうした施設は「貧困ビジネス」と呼ばれている。

 全てがこのような環境ではないかもしれないが、窓口で選択の余地を与えてくれることはほぼない。その時に空いている施設を紹介されるだけだ。見たこともない施設に急に入れられるのだから、不安を感じる人は多い。

 また、都内でよく利用されるのは「更生施設」である。当事者の証言によれば、個室だが外出時以外に部屋に鍵がかからない。そのため入所者同士での窃盗が起こり、警察が来ることも少なくない。朝から夜までスピーカーから大きな音で放送が流れて寝られない。風呂・トイレ、食堂が共同であるなどといった環境である。こうした施設からも出たいという相談が少なくない。

 単身女性向けの「宿所提供施設」は、役所が紹介する施設の中ではおそらく一番マシである。借り上げアパートタイプなので、一人暮らしに近い。とはいえ、全く管理がないわけではなく、外出時には管理人への申告が必須とされていたりする。

Q 「施設」に入りたくないが、どうしたらいい?

 生活保護の申請時に上記のような「施設」への入所を求められ、申請できず終わったという相談は多い。

 まず、生活保護の申請に「条件」をつけてはならない。施設入所を申請の条件とすることは申請権の侵害であり、違法行為である。

 さらに、生活保護は法律上、「居宅保護の原則」を掲げており、アパートや持ち家に住みながら受給することを求めている。その上で、施設での保護適用は例外であり、本人の意に反して強制できないとされている。

 つまり、いくら入れと言われても、本人が断ればいいのだ。しつこい場合には私たちのような支援者の同行を仰いでもいい。ただ、最も重要なのは本人の意思である。

 とはいえ、施設に入らず路上生活をするのも過酷であるし、役所もそれは認めない。そうした場合には、友人宅に居候したり、ネットカフェやビジネスホテルに宿泊したり、支援団体のシェルターに入って待機することも可能だ。詳しくは下記の記事もあわせてご参照いただきたい。

Q なぜ役所は「施設」に入れたがる?

 次に「施設」から出るためのノウハウを解説するが、少しだけ制度の説明をしたい。

 そもそも、前述の通り生活保護では法律上、「居宅保護の原則」が掲げられており、望めばすぐにでもアパート転宅が認められるべきである。

 しかしながら、行政が法律を運用する際の基準である国の通知・通達においては、「居宅生活ができると認められる者」のみにアパート転宅のための初期費用支給を認める、とされてしまっている。つまり、法律では「みんなにアパート生活を認めるべき」と書いておきながら、実際の運用では「役所が認めた者にしかアパート生活を認めない」という「転倒」が起きているのだ。

 それでは、「居宅生活ができると認められる者」とはどういう人なのか。具体的には、生活費の金銭管理、服薬等の健康管理、炊事・洗濯、人とのコミュニケーション、などが自力でできる、自力でできない場合には社会資源を活用してできる場合、と示されている。

 実は、こうした「能力」を判断するために一定期間「施設」に入所させ、「施設」の管理者などに能力を判断してもらう、というのがたいていの役所のやり方である。その帰結として、施設に入らなくても保護自体は認めるが、施設に入らないとアパートの初期費用を認めない、という役所もあるくらいだ。これでは事実上の施設強制である。

Q 「施設」から出たい。どうしたらいい?

 具体的なノウハウの前に制度解説の前置きが長くなってしまった。「施設」を出るにはどうしたらいいか。

 まず、「居宅保護の原則」を認めろ、という直球勝負で行くなら初期費用の申請書(一時扶助申請書)を出すのがよい。自作の申請書でかまわない。最初の生活保護の開始と同じく、アパートの初期費用についても、役所に申請書を出せば14日以内(最大30日以内)に費用を支給するかどうか判断しなければならない。

 特に、「施設を出てアパートに移りたい」とケースワーカーに言っても話が進まない場合には、申請書を出すのが効果的だ。単に話しているだけでは申請行為が成り立たず、ずるずると引き延ばされるからだ。申請書を出すだけで話が一気に進み、アパートに移れる場合も少なくない。

 NPO法人自立生活サポートセンター・もやいのHPから書式をダウンロードできる。

 しかし、やはり「居宅生活ができる」と認められないからダメだ、というケースも多い。この場合にはいろいろな手段を動員することになる。

 第一に、多くの人は施設の環境に耐えられず、持病が悪化していたりする。本来は治療や療養に専念すべきところを、施設によって阻害されているわけである。そこで、主治医に施設の環境が病状の悪化につながっている、アパートに移った方がいい、などの診断書を出してもらうのである。

 生活保護の目的は「最低生活の保障」と「自立の助長」であるから、病気が悪化していると自立どころではない、ということで話が進むことがある。

 ただし、この方法は主治医に理解がある場合に限られてしまう。

 第二に、あえて「居宅生活ができると認められる者」の条件に則って認めさせる方法である。金銭管理や健康管理が自力でできなかったとしても、社会資源を活用してできるようにすればいいとされているため、障害福祉の枠組みでヘルパーを活用したり、社会福祉協議会の金銭管理支援などを利用して「できるようにする」。

 これは、本人が地域で社会生活を送るために当然提供されるべきサービスなので、最初から役所がやれば済むことだと思うが、役所は「自力」でできることを求めがちなので、ちゃんと通知を読んで運用しろと常々思っている。

 以上は、ある意味「正攻法」である。近くの支援者にアクセスできなかったり、主治医の理解がないと難しいかもしれない。もっといえば、もうすでに耐えがたく、解決するのを待っていられない、ということもあろう。

 「正攻法」が難しければ、まず逃げてもいいと私は思う。これは文字通りの意味で、施設から脱走するのである。実際、施設から逃げている人は少なくない。路上生活をしている方に聞くと、施設から逃げてきたという話はよく聞く。

 「施設」は監獄のような場所だという当事者は多いが、監獄と異なるのは、脱出したところで罪に問われるわけではない、ということだ。生活保護上においても、不正受給でもないし、役所と連絡が取れている限りでは保護が打ち切られるわけでもない。

 もちろん、逃げた後の行き場もなく、路上生活をするのも過酷である。そういう意味では私たちのような支援者と一緒にアパート転宅を求めた方がいいと思う。ただ、もう耐えられなければ逃げてもいいのだ。それから相談してもらってもいい。

 みんなが施設入所を拒み、入ってしまった人も脱走すれば、施設の経営は成り立たなくなるだろう。そして、そもそも生活保護上の施設は、役所が即座にアパート転宅を認めれば不要である。みんなで施設を脱走して、役所に転宅費用を求めて押しかけてみるのはどうだろうか?

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