「毒親」のいる実家脱出のための生活保護フル活用マニュアル
筆者が所属するNPO法人POSSEの生活相談窓口では、今年度(2022年4月〜)は10代〜30代の若者の相談が急増し、約3倍のペースで寄せられている。その多くが、「親との関係が悪いため実家を出たい」あるいは「親から実家を追い出されそうになっている」というものだ。これらのケースを詳しく聞き取ると、幼少期から親からの虐待を受けている場合も少なくない。こうした「毒親」から逃れて生活する方法をQ&A方式で解説しよう。
Q1 実家を出たいけど、自分でアパートを借りるお金がない。どうしたらいい?
アパートを借りようとすると、多額の初期費用がかかるのが一般的だ。これが実家を脱出できない最大の要因と言ってもいい。この初期費用を支給(借金ではない!)してくれる唯一の制度が、生活保護である。
都内単身者だと初期費用として約28万円が支給され、さらに引っ越し業者の費用、新生活を始める上で必要な家具・家電、布団代まで出してもらえる。こんなに手厚い制度は他にはない。
Q2 生活保護はどうすれば受けられる?
生活保護は、大まかには「世帯」の収入と資産の条件を満たせば受けられる。この「世帯」が厄介で、親と同居している限りでは自分個人だけで受けることができない。そのため、後述する方法で実家をまず出なければならない。
生活保護は、住民票と関係なく、その時寝泊まりしている地域で申請ができる。申請が受け付けられると、収入や資産についての審査が開始されることになる。申請から決定までの期間は原則14日以内(最大30日)とされている。
収入基準は地域や年齢により異なるが、都内単身者を例に取ると約13万円となる。資産については、貴金属や自動車、生命保険などは原則保有が認められていない(例外的に認められる場合もある)。預貯金は月々の保護費の半額までしか認められない(都内単身者だと6.5万円ということになる)。
ただし、注意しなければならないのは、上述の保護の決定は毎月支給される保護費(家賃や生活費など)の決定についてであり、アパートの初期費用の決定は別途行われるということだ。私の経験上、都内近郊では1ヶ月程度かかると見ておいた方がいい。まれに申請と同時に即アパートの初期費用を支給する自治体もあり、ぜひ広がってほしいが…。
Q3 実家を出て、初期費用が出るまで待機する場所は?
①無料低額宿泊所
実家を出て、役所の窓口で「もう実家に戻るつもりはありません」と伝えれば、自分ひとりでの申請が受け付けられる。そうすると、無料低額宿泊所という施設への入所を求められることが多い。
しかし、こうした施設の居住環境が劣悪であることが少なくないと言われている。私が相談を受けた人たちの証言によれば、部屋は個室でなかったり、個室と称していてもワンルームの部屋をベニヤ板で仕切っているだけだったりする(1人あたり3畳程度)。南京虫が湧いた施設もあるという。
さらに、食事は古い米が多く、揚げ物ばかりだったり、毎日同じものばかりだったり、と評判がよくない。食事、風呂、清掃などの集団生活が辛いという人もいる。また、保護費のほとんどを徴収され、手元に1、2万円程度しか残らないという。
全てがこのような環境ではないかもしれないが、窓口で選択の余地を与えてくれることはほぼない。その時に空いている施設を紹介されるのである。見たこともない施設に急に入れられるのだから、不安を感じるのも無理はない。まず見学させてくれと主張するのも一つであるし、このような施設への入所は強制できないと法律で定められているため、断ってもよい。
では、代替策としてはどのような方法があるか。
②ネットカフェやビジネスホテルなどの宿泊施設
この方法を「うちは認めていない」という自治体もある。しかし、国が認めているから大丈夫だ。もちろん、宿泊代がかかるが、役所から一定の範囲内で支給してもらえる。具体的には、生活保護の家賃額を日割りで計算した金額となる(都内だと約2300円)。
③友人宅などに居候
この方法も認めたがらない自治体が少なくないが、あくまで一時的な居候であると主張すれば可能だ。この場合には、職員が友人宅を訪問したり、友人に事情を聞いたりするなどの調査に協力する必要が出てくるため、友人の同意を事前に取っておいた方がいい。
④その他のシェルター
その他に、民間団体で普通のワンルームのアパートを借り上げ、費用も最低限の家賃と管理費程度しか徴収しないシェルターも存在する。自治体によっても借り上げアパート(例:東京23区の宿所提供施設)やビジネスホテル(例:さいたま市)を期限付きで提供するなどの施策をとっているところもある。
以上が、実家脱出のための生活保護のフル活用マニュアルである。知識としてはこれで十分なのだが、現実には生活保護を申請できずに追い返される「水際作戦」にあったり、施設入所を強制されることはありうる。そうした場合には、私のような専門家、支援団体に相談していただきたい。窓口に同行し、申請をサポートします。
NPO法人POSSE 生活相談窓口
TEL:03-6693-6313
火木 18:00~21:00/土日祝13:00~17:00
メール:seikatsusoudan@npoposse.jp
LINE:@205hpims
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