賃労働・家族・福祉からの排除あるいは脱出(上)
森達也編著『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?ー知らぬ間に忍び寄る排除と差別の構造』に寄稿した論文です。
今岡直之
2024.02.12
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1、はじめに
排除を問題にするということは、暗黙のうちに包摂すべきだという主張が隠されているように思われる。貧困研究や貧困対策においても、お金が足りないだけではなく、社会参加ができず孤立が広がっているとして、「社会的排除」が問題とされている。日本においては、2013年に生活困窮者自立支援法が制定され、「断らない相談支援」を通じて排除された人たちを「社会的包摂」していくことが目指されている。
しかし、ここでの「包摂」には問題があるように思われる。まず、生活困窮者自立支援法に基づく各事業は、基本的に労働市場に「包摂」しようとするものである。就労準備支援事業はもちろんのこと、家賃補助を行う住居確保給付金の受給は就職活動が必須であり、シェルターを提供する一時生活支援事業は働いてアパートの初期費用を貯金することが求められる。不安定で低賃金の非正規雇用や、過重労働で若者を使い潰す「ブラック企業」が問題となっている中で、労働市場に戻そうとすることは問題含みである。