居住環境と入居差別をめぐる問題について(前編)
一家離散で土地勘も知り合いもいない東京へ
あれ、こんなに白髪の多い方だったかな…。
3月初旬、都内在住のBさんに会ったのは実に3年ぶりであった。正直に言うと、私の記憶はかなり薄れていたが、まだ30代後半のBさんは、前に会った時にはこんなに白髪の多い方ではなかったはずだ。白髪の多さにこの3年間の苦労が伺える。
3年前、Bさんは関西の実家から東京に出てきた。実家の住宅ローンが支払えなくなり、一家離散となってしまったのだ。東京に出てきたのは、いっそ知り合いのいないところに行きたかったからだ。実家では父親がひきこもり状態で、母親が仕事を掛け持ちして家計を支えていたが、がんで入院するなど健康を害してしまったため、ローンの支払いが困難になってしまった。Bさん自身も、アルバイト先の同僚から他の従業員や客に悪口を言いふらされるなどのストレスでうつ病による不眠症になり、療養していたところだった。
Bさんは都内でも比較的家賃が安いということでX市のアパートを借り、仕事ができる健康状態でもないので生活保護を受けていた。遠方かつ時間的に余裕もなかったので、内見もせずにアパートを借りたが、そこは「トラック街道」とも呼ばれる交通騒音の酷い場所であった。仕事をしていて日中にあまり家にいないという人であれば耐えられるのかもしれないが、無職で療養のためにずっと家にいる人にとっては、一日中騒音を受け続けることになり、非常に耐え難いものである。
療養どころか病気が悪化していったBさんは、療養に専念できる条件の物件をY市で見つけ、引越しをするために主治医から診断書をもらい、市役所にかけ合った。しかし、役所は市内の物件なら転居費用を出すが、市外は認めないという態度だった。そこで、BさんはPOSSEに相談したのであった。